山形俊男
国立研究開発法人 海洋研究開発機構 アプリケーションラボ
講演概要
気候変動現象としてよく知られているものに赤道太平洋のエルニーニョ現象があります。1999年に私たちは赤道インド洋にも似た現象が起きることを発見し、ダイポールモード現象と名づけました。現在はIndian Ocean Dipole (IOD)と略称されることが多いようです。このIODも世界各地に気象災害を起こします。この現象を発見するきっかけとなったのは1994年の日本の猛暑です。猛暑の原因を探る過程で赤道インド洋の海流の異常に気づきました。赤道インド洋にはインドモンスーンが止む春と秋に吉田―ウイルツキ・ジェットと呼ばれる東向流が生じますが、不思議なことに1994年秋にはこのジェットがほとんど出現しませんでした。それはインド洋西部で海水温が高く、東部では低く、東西に気圧差が生じて東風が卓越していたためでした。この1994年には赤道太平洋にも奇妙な現象が発生していました。日付変更線付近で海水温が高く、その両側で低くなっていたのです。エルニーニョ現象のようでそうではないので、これをエルニーニョモドキと名づけ、その現象の構造や各地への影響などを調べました。現在、世界の多くの気候研究者が地球温暖化との関係でこの研究を発展させています。ところで赤道域と沿岸域の海洋力学には相似性があります。この相似性から沿岸域にもエルニーニョのような現象が発生するはずだと予想し、オーストラリア西岸にニンガルーニーニョ、カリフォルニア沖にカリフォルニアニーニョ、アフリカのダカール沖にダカールニーニョを発見しました。こうした気候変動現象は海盆スケールのものであれ、地域的なものであれ、様々な影響を人間社会や生態系に及ぼします。そこで大気と海洋の大循環モデルを結合させて、こうした気候変動現象をコンピューターの中に再現し、地球観測データを同化して季節の未来を予測する科学技術を推進しています。洪水や旱魃、冷夏や猛暑など、気候変動のもたらす影響を半年から1年前に予測し、社会に貢献する季節予測の科学技術はますます発展していくでしょう。今回の講演では新しい気候変動現象の発見に至った過程、これを予測する研究の進展、防災、農業、健康などの分野への応用研究について紹介したいと思います。